防水ハーネスのグロメットとシリコンジェルの防水構造とは
自動車用の防水ハーネスでは、電線とコネクタの接続部、パネルの貫通部、ハーネスの分岐・接続部など、水や湿気が侵入する可能性のある箇所にシール構造を設けています。
株式会社フォスターでは、防水コネクタ・防水ハーネスを対象に、防水性試験(IP試験)、シール性試験、耐湿性試験、温湿度サイクル試験などを実施し、防水性能や環境耐久性を評価しています。
防水ハーネスで使用される代表的なシール構造には、シングルワイヤシール(ゴム栓)、マットシール、グロメット、シリコンジェルなどがあります。
中でも、グロメットとシリコンジェルは、防水ハーネスの異なる箇所で使用される代表的な防水構造です。
防水ハーネスの主なシール構造
防水ハーネスでは、用途や構造に応じて複数のシール部材が使い分けられます。
| シール部材 | 主な使用箇所 | 主な役割 |
|---|---|---|
| シングルワイヤシール(SWS) | コネクタの電線貫通部 | 電線1本ごとの防水 |
| マットシール | コネクタ後端 | 複数の電線を一括して防水 |
| グロメット | パネル貫通部 | パネルとハーネス間の防水・保護 |
| シリコンジェル | ジャンクション・接続部など | 複雑な形状の封止・防水 |
これらは単独で使用される場合だけでなく、複数のシール構造を組み合わせて防水性能を確保する場合もあります。
シングルワイヤシール(SWS)の構造と機能
シングルワイヤシール(Single Wire Seal:SWS)は、コネクタの端子挿入部に装着され、電線1本ごとに防水するシール部品です。
SWSには、電線の絶縁被覆に密着する内周側と、コネクタハウジングに密着する外周側にリップなどのシール構造が設けられています。
電線とシール部材、シール部材とハウジングの間に密着状態を形成することで、電線貫通部からの水や異物の侵入を抑制します。
材料には、用途や使用環境に応じてEPDMやシリコーンゴムなどが使用されます。
SWSは電線ごとに装着するため、電線外径に適合したシール部品を選定することが重要です。
また、SWSの組付け状態や傷、位置ずれ、電線の引き込み状態なども防水性能に影響するため、製造工程における管理が重要になります。
マットシールの構造と機能
マットシール(Mat Seal)は、コネクタの後端側に配置され、複数の電線貫通部を一括してシールする構造です。
多数の端子・電線を使用する多極コネクタでは、電線ごとにSWSを取り付ける方式と比較して、組立工程を簡略化できるというメリットがあります。
マットシールには電線を通すための複数のシール部が形成されており、電線を挿入した状態でシール部が電線外周に密着します。
防水性能を確保するためには、
- 電線径とシール部の適合
- 電線の挿入状態
- シール部の損傷
- ハウジングへの組付け状態
などを適切に管理する必要があります。
グロメットの防水構造
グロメット(Grommet)は、車体パネルなどの貫通部に取り付けられるシール部材です。
自動車では、車室内とエンジンルームの間など、ハーネスがパネルを通過する箇所に使用されます。
グロメットには、主に次のような役割があります。
- パネル貫通部からの水の侵入を防ぐ
- ハーネスとパネルの隙間を密封する
- 電線をパネルのエッジから保護する
- 振動による電線への負荷を緩和する
- ハーネスを所定の位置に保持する
グロメットの外周部はパネルの開口部に密着し、内側はハーネスや電線を保持・密封する構造となっています。
そのため、防水性能だけでなく、グロメットとパネルの嵌合状態、電線の保持状態、振動による変位なども重要な評価項目になります。
特に車両では、走行時の振動や温度変化によってグロメットとパネルの間に繰り返し荷重が作用するため、長期的なシール性能の維持が求められます。
シリコンジェルによる防水構造
シリコンジェル封止は、ハーネスの分岐部や電線の接続部など、通常のシール部材だけでは防水が難しい複雑な形状に使用される防水方法の一つです。シリコンジェルをケースやハウジング内部に充填し、電線・端子・接続部周辺を封止することで、水分や湿気の侵入を抑制します。
シリコンジェルは硬い樹脂で完全に固めるポッティングとは異なり、柔軟性や粘弾性を持った状態で内部を封止できることが特徴です。
そのため、
- 電線本数が多い
- 電線の取り出し方向が複雑
- 接続部の形状が複雑
- 振動や熱膨張による変位が発生する
といった箇所にも適用しやすい構造です。
ただし、シリコンジェルを使用したからといって自動的に高いIP等級が得られるわけではありません。
ケース構造、ジェルの充填状態、電線との密着状態、材料特性、組立条件などを含めた製品全体の設計によって防水性能が決まります。
グロメットとシリコンジェルの違い
グロメットとシリコンジェルは、どちらも防水に使用されますが、主な使用箇所と防水方法が異なります。
| 項目 | グロメット | シリコンジェル |
|---|---|---|
| 主な使用箇所 | パネル貫通部 | ハーネス接続・分岐部など |
| 防水方法 | 部材同士を密着させる | ジェルで内部を封止 |
| 主な特徴 | 防水+電線保護 | 複雑形状への対応 |
| 柔軟性 | 材料・構造による | 比較的高い |
| 主な管理項目 | 嵌合状態・傷・変形 | 充填状態・密着状態・材料特性 |
つまり、
グロメット:ハーネスがパネルを通過する部分を防水する
シリコンジェル:ハーネスの接続・分岐部などを内部から封止する
という違いがあります。
防水ハーネスの防水性能に影響する要因
防水性能は、シール部材そのものだけで決まるわけではありません。
例えば、以下のような要因が影響します。
- シール部材の材質
- シール部の形状
- 電線外径
- シールと電線の密着状態
- シール部材の組付け状態
- ハウジングの寸法・形状
- グロメットとパネルの嵌合状態
- ジェルの充填状態
- 温度変化
- 湿度
- 振動
- 経年劣化
特に自動車用ハーネスは、温度変化・振動・水分などが複合して作用するため、初期状態だけでなく環境試験後の防水性能を確認することが重要です。
防水ハーネスの防水性評価
防水性能の評価では、製品の使用環境や要求仕様に応じて、IP試験や浸水試験などを実施します。
IP等級の評価では、IEC 60529およびJIS C 0920が代表的な規格として使用されています。
例えばIPX7では一時的な水中への浸漬に対する保護性能、IPX8では規定された条件での継続的な水中使用に対する保護性能を評価します。
なお、IPX8の試験条件はIPX7のように一律の水深・時間が規定されているものではなく、製品ごとに使用条件を考慮して決定されます。
そのため、実際の試験では製品仕様や要求される防水条件を確認したうえで試験条件を設定する必要があります。
防水試験と電気特性評価の組み合わせ
防水ハーネスでは、水の侵入そのものだけでなく、浸水によって電気特性が変化していないかを確認することも重要です。
例えば、
- 接触抵抗
- 電圧降下
- 絶縁抵抗
- 耐電圧
- 導通状態
などを防水試験の前後で測定することで、防水試験による電気的な影響を評価できます。
また、必要に応じて試験後の外観観察や断面観察を行い、シール部材や接続部への水分侵入状態を確認します。
耐湿性・温湿度サイクルによる防水性能評価
防水性能は、初期状態だけでなく、長期間の温度・湿度変化によって低下する可能性があります。
例えばシール部材では、膨潤、収縮、硬化、軟化、永久変形、材料劣化などによって密封状態が変化する場合があります。
そのため、防水ハーネスの信頼性評価では、IP試験だけでなく、耐湿性試験や温湿度サイクル試験などを組み合わせて評価することが有効です。
防水ハーネスの評価で重要なポイント
防水ハーネスの評価では、単純に「水が入ったか、入らなかったか」だけを見るのではなく、
① シール構造
② 環境負荷
③ 防水性能
④ 電気特性
⑤ 劣化状態
という流れで評価すると、防水性能低下の原因を把握しやすくなります。
例えば、温湿度サイクル後にIP試験を実施し、その後に接触抵抗や絶縁抵抗を測定することで、環境負荷によるシール性能低下と電気特性への影響を確認できます。
まとめ
防水ハーネスでは、使用箇所や構造に応じて、シングルワイヤシール、マットシール、グロメット、シリコンジェルなどの防水構造が使い分けられています。
グロメットは主にパネルとハーネスの貫通部を密封し、防水と電線保護を行う部材です。
一方、シリコンジェルは、ハーネスの接続部や分岐部などの複雑な形状を内部から封止する防水方法として使用されます。
防水性能はシール部材だけで決まるものではなく、組付け状態、材料特性、温度変化、湿度、振動などの影響を受けます。
そのため、防水ハーネスの信頼性評価では、IP試験だけでなく、耐湿性試験、温湿度サイクル試験、接触抵抗測定、絶縁抵抗測定、外観・断面観察などを組み合わせて評価することが重要です。
株式会社フォスターの防水ハーネス評価
株式会社フォスターでは、自動車用コネクタ・ワイヤーハーネスを対象に、IP試験、防水性評価、シール性評価、耐湿性試験、温湿度サイクル試験などの各種信頼性評価に対応しています。
防水試験だけでなく、試験前後の電気特性測定や外観・断面観察などを組み合わせ、防水性能の確認から劣化状態の評価、不具合原因の解析まで一貫した評価をご相談いただけます。
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よくある質問
防水ハーネスにはグロメットとSWSのどちらが必要ですか?
用途によって異なります。コネクタ個々の端子挿入孔をシールする場合はSWSまたはマットシール、電線束がパネルを貫通する箇所にはグロメット、ジャンクション部の防水にはシリコンジェルが使われます。多くの防水ハーネスではこれらを組み合わせてシステム全体の防水性を確保しています。
シリコンジェルは電線の絶縁性に影響しませんか?
一般的な防水用シリコンジェルは電気的に不活性(絶縁材料)であり、適切に選定・施工された場合は電線の絶縁性に悪影響を与えません。ただし、シリコンジェルが端子の接触面に付着すると接触抵抗が上昇するため、施工時の管理が重要です。
IP67とIP68の違いは何ですか?
IP67は「水深1mに30分間浸漬しても有害な影響がない」、IP68は「規定された条件(水深・時間がIP67より過酷)で長時間浸漬しても有害な影響がない」ことを示します。IP68の具体的な条件はメーカーと顧客間の取り決めによって異なります。
フォスターでシール部材の防水試験を依頼する場合、試料はどのように準備しますか?
防水コネクタまたは防水ハーネスアッセンブリの状態でご提出ください。防水試験後の電気特性確認(接触抵抗・絶縁抵抗)も一括してご依頼いただけます。試験条件(IP等級・水深・浸漬時間)はご相談の上で設定します。
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