概要
コネクタや基板の異なる電位を持つ導体間で、水分の存在下に金属イオンが移動して樹枝状の析出物(デンドライト)を形成し、絶縁抵抗低下や短絡に至る現象がイオンマイグレーションです。特にCu配線やSnめっき端子で発生しやすく、高温高湿環境下での電界印加が引き金となります。本ページでは発生に必要な三要素と、フォスターで実施する高温高湿試験による評価条件の考え方を解説します。
イオンマイグレーション発生の三要素
イオンマイグレーションは「水分」「電位差(電界)」「イオン化しやすい金属」という三要素が揃った際に進行します。表面や隙間に結露や吸湿によって水分膜が形成されると、これが電解質の役割を果たし、陽極側の金属(Cuなど)がイオンとして水分中に溶出します。溶出した金属イオンは電界に沿って陰極側へ移動し、そこで還元されて樹枝状(デンドライト)の金属析出物として成長します。この析出物が対向電極まで到達すると絶縁抵抗の急激な低下や短絡故障を引き起こします。三要素のいずれか一つでも欠ければ進行しないため、対策は水分の遮断・電界の低減・耐マイグレーション性材料の選定のいずれかにアプローチすることになります。
Cu・Snで起こりやすい理由と析出形態
- Cuはイオン化傾向が比較的高く、水分中で容易にCu2+イオンとして溶出しやすい
- Snめっきは表面の微細な欠陥や気孔から水分が浸透しやすく、局所的なマイグレーション起点になりやすい
- 析出したデンドライトは樹枝状に短時間で成長し、微小な絶縁距離ほど短絡までの時間が短くなる
- 塩分や酸性物質(硫黄・アンモニア等)が水分中に含まれるとイオン化が促進され進行が加速する
高温高湿試験による評価条件
| 試験区分 | 評価のねらい |
|---|---|
| 恒温恒湿試験(通電状態) | 実使用に近い温湿度・電圧条件で長時間の絶縁抵抗変化を追跡する |
| 高加速寿命試験(HAST) | 高温・高湿・高電界を組み合わせ短時間でマイグレーション進行を加速評価する |
| プレッシャークッカー試験(PCT/HAST) | 飽和水蒸気環境下での耐湿性を無バイアスまたは通電状態で確認する |
| 絶縁抵抗測定 | 試験前後および試験中の絶縁抵抗値の推移からマイグレーション進行度を定量化する |
設計・評価上の留意点
イオンマイグレーションは初期段階では絶縁抵抗の緩やかな低下として現れ、ある時点でデンドライトが対向電極に到達すると急激な短絡に至るため、絶縁抵抗の連続モニタリングによる早期傾向把握が重要です。評価にあたっては実際の使用電圧・電極間距離・想定される結露条件を反映した試験設計が求められ、単純な高温高湿放置だけでなく通電状態での評価がマイグレーションリスクを正しく捉える鍵となります。
関連する試験
よくある質問
イオンマイグレーションと電食(ガルバニック腐食)は同じ現象ですか。
異なる現象です。ガルバニック腐食は異種金属間の電位差により陽極側金属が溶解・消耗する腐食現象であるのに対し、イオンマイグレーションは溶出した金属イオンが電界に沿って移動し、陰極側に樹枝状の析出物を形成して絶縁破壊や短絡を招く現象です。
無電圧状態でもイオンマイグレーションは起こりますか。
電位差(電界)が三要素の一つであるため、基本的には通電・印加電圧が存在する状態で進行します。無通電状態では進行は極めて緩やかまたは発生しません。
どの程度の湿度から発生リスクがありますか。
一般的には相対湿度が高く結露が生じやすい環境(高温高湿や温度サイクルによる結露)でリスクが高まりますが、隙間の形状や汚染物質の有無によっても閾値は変動するため、実使用条件に基づく評価が推奨されます。
耐マイグレーション性を高める設計変更にはどのようなものがありますか。
絶縁距離の拡大、防水・防湿構造による水分侵入の遮断、耐硫化・耐イオン化性の高いめっき仕様の採用、コンフォーマルコーティングの適用などが代表的な対策です。
株式会社フォスターについて
株式会社フォスターは三重県に拠点を置き、自動車部品(コネクタ・ハーネス・圧着端子)の受託試験を中心に20年以上の実績を有しております。環境試験、電気特性試験、機械的特性試験など幅広い評価に対応し、お客様の品質保証・開発をサポートしています。
