プラスチックの耐薬品性とソルベントクラックの防止設計

概要

自動車のエンジンルーム内では、ブレーキフルード、燃料、不凍液、バッテリー電解液など様々な薬品に樹脂部品がさらされます。応力がかかった状態で特定の薬品に接触すると、樹脂内部にクラックが発生する「ソルベントクラック(環境応力割れ)」が問題となります。本記事ではその発生メカニズムと防止設計、評価試験方法を解説します。

ソルベントクラック(環境応力割れ)とは

ソルベントクラックは、樹脂自体の化学的分解を伴わずに、残留応力または外部応力と特定の薬品(応力割れ誘発剤)が共存することで微小クラックが発生・進展する現象であり、環境応力割れ(Environmental Stress Cracking, ESC)とも呼ばれる。薬品分子が樹脂表面から浸透して分子鎖間の相互作用を弱めることで、通常より低い応力でも塑性変形やクレイズ(微小空隙を伴う白化)が生じ、これが亀裂に発展する。特に非晶性樹脂であるPC(ポリカーボネート)やABSは、分子鎖の絡み合いに強度を依存しているため、結晶性樹脂に比べてESCに対する感受性が高い。

発生要因:応力と薬品の相乗作用

  • 成形時の残留応力(ゲート部・厚肉部・インサート部周辺に集中しやすい)
  • 組付け時の外部応力(ねじ締結、圧入、こじりなど)
  • 薬品の種類・濃度・接触時間・温度
  • 樹脂の結晶化度・分子配向・分子量

代表的な薬品と樹脂の耐性比較

薬品影響を受けやすい樹脂主なリスク箇所
ブレーキフルード(グリコールエーテル系)PC、ABS応力集中部のクラック
不凍液(エチレングリコール)PA(高応力下)加水分解と応力割れの複合劣化
ガソリン・軽油PE、PP、一部エラストマー膨潤・強度低下
バッテリー希硫酸金属メッキ端子、一部樹脂腐食・変色
洗浄剤・アルコール系溶剤PC、PS表面クレイズ・クラック

防止設計のポイント

  • 応力集中部(角R、肉厚差、ゲート位置)の緩和設計
  • 薬品接触が想定される部位への耐薬品グレード樹脂の採用
  • 組付け・締結時の許容応力を材料の応力割れ限界以下に管理
  • アニーリング(除歪処理)による残留応力の低減
  • 表面コーティングによる薬品接触の遮断

評価試験方法

耐薬品性の評価には、一定応力を負荷した治具に試験片を固定し、対象薬品に浸漬・塗布して規定時間後のクラック発生有無を観察する薬品浸漬試験(応力印加型)や、実使用条件を模した耐油性試験が用いられる。試験後は外観検査に加え、断面構造検査により内部クラックの進展度合いを確認し、必要に応じてマイクロスコープ・SEM観察で破壊起点を特定する。


関連する試験


よくある質問

ソルベントクラックと通常の薬品劣化の違いは何ですか。

通常の薬品劣化は化学的な分解を伴いますが、ソルベントクラックは応力と薬品の共存下で分子間相互作用が弱まり亀裂が進展する物理的現象です。

PCはなぜソルベントクラックが起きやすいのですか。

非晶性で分子鎖の絡み合いに依存した強度を持つため、薬品浸透により分子間力が弱まると応力割れが生じやすくなります。

成形時の残留応力はどう低減できますか。

適切な金型温度・保圧条件の管理や、成形後のアニーリング(除歪処理)により残留応力を低減できます。

ソルベントクラックの評価試験はどのように行いますか。

一定応力を負荷した治具に試験片を固定し対象薬品に接触させ、規定時間後のクラック発生有無を目視・断面観察で確認します。


株式会社フォスターについて

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